連載GOLF Atmosphere No.129 / 2025年度総集編

*OSU Scarlet Course 1993年
ニクラウスの母校オハイオ州立大スカーレットコースに注目。
OSUことオハイオ州立大の専属ゴルフコースはスカーレットコース、グレイコースの36ホールがあります。中でもスカーレットコースはミシガンのクリスタル・ダウンズと共に、アリスター・マッケンジーがスケッチ図面を描き、1938年にパートナーだったペリーマックスウェルが完成に導いたコースです。高低差20m程度のスロープが流れる優雅な地形にレイアウトされています。著者が初めて訪問したのは1993年の事。クラブハウスには卒業生のニクラウスが獲得したトロフィーやメダル、アリスター・マッケンジーから送られてきたスケッチ図面などが所狭しと展示されています。当時はコースにも感動しましたが、ハウスの中のAtmosphereは半端なくニクラウスの空間です。スカーレットコースは1991~95年まで全米TOP100コースに君臨していました。実は93年以来、OSUには訪問するチャンスがありませんでした。2004年に卒業生のニクラウス本人が母校の36ホールをリノベーションすると発表し、06年にそれは完了します。スカーレットコースの全長は7,444ヤードに延長され、コースに磨きがかかりました。ところがマッケンジーのコースにニクラウスが手を加える事にメディアは全く反応しなかったのです。つまり両者は設計のコンセプトがまったく違いますし、大学のセミプライベートコースである事も報道する意味がないと判断されたのかも知れません。2012年にクラブOBの方から一度見学にきませんか?と写真が送られてきて、それを見た時には一瞬時間が止まるほどの驚きでした。えっこれがニクラウスのリノベーション? 彼のカラーなどまったく出ていないマッケンジー/マクスウェルを意識した造形美です。そして最近更に修繕されてコースは磨きを増しています。

*OSU Scarlet Course #13 PAR3 2006年
C.B.マクドナルド設計のイエール大専属コース、コロナ禍の中、クラブは財政難でコースは破壊状態になりましたが、卒業生たちのクラウドファンディングによりギル・ハンスとジム・ワグナーのコンビにコースの復元を依頼、23年彼らは見事にコース再生を果たしました。しかしこちらもスカーレット同様にあまり注目されていません。どちらも全米トップ100コースに入っていた作品なのに、米国は新設のコース建設ラッシュが進み、更に戦前からのオールドコースのレストレーションが話題を呼び、学生の為の大学附属コースにまで注目がいかないのかも知れません。やや残念な気もします。
温暖化による海面の上昇は本場のリンクスにも影響を与えるのか。

*North Berwick GC #14 Perfection
地球温暖化の影響で、オセアニア諸島の国ツバルが国土の水没危機から国民のオーストラリア移住計画の話は進んでいることはご存知の事だと思います。日本も江ノ島の片瀬海岸など確かに砂浜が減っていますし、ハワイのワイキキビーチもここ10年を比較しても随分とビーチが侵食されています。例として、アウトリガーリーフからシェラトンまでのビーチは時間になると歩けなくなるほどです。
実はこれは世界中どこでも問題になっており、本場スコットランドリンクスの愛好家たちならば誰もがプレーしただろうNorth Berwick GC Westコースでも少なからず温暖化の影響を受けているようです。
今年度クラブは著名コース設計家のGil HanseとJim Wagnerのチームを中心とした専門家チームを立ち上げ、数年単位でコースの修繕を行うことを決定しました。基本的には現在の形状を保持し、改修するべき箇所を探して行く作業です。その中の一つに海面の上昇に伴う海岸線の補修工事も含まれる事を発表しました。まず問題点となるのは海岸線に最も接する3番ティと14番グリーンへの対策です。ここは海面から僅か6フィートの高さしかなく、海が時化るならばコースに影響を及ぼす危険があります。グリーンやティを床上げするのか、自治体の許可を持って砂浜に防波堤を設けるのか、今後検討されるとの事です。但しこれはNorth Berwickに限られた事ではなく、多くのリンクスが温暖化による海面の上昇に向き合う事になるはずです。

*North Berwick Layout map
ライダーカップ、ホテル代わりに豪華クルーズ船案が浮上。

2027年のライダーカップはアイルランドのLimerickの南20km程の距離にあるAdare Manorで開催されます。19世紀の城館を改装増築して現在113の部屋と4つのコッテージを持つ一大ゴルフリゾートになっています。一昔前のアイルランドだったら絶対に考えられなかった富裕層をターゲットにしたリゾート開発です。今回GOLF.comでも取り上げている一つの問題が、Limerick県の人口は僅か20万人足らず、選手及び大会関係者はリゾート施設内に滞在できますが、2019年のパリ郊外Le Nationalでの大会、2023年ローマ郊外、Marco Simoneでの大会でもわかるように大会期間中には計約20万人近いギャラリーが訪れる事が予想されます。実はLimerick県内にはそれだけのギャラリーを迎え入れるだけのアコモデーション(宿泊施設)がありません。そこで県と大会側が考案したのが、港まで豪華クルーズ船を入れて、そこから会場までバス送迎をするというとんでもない発想のプラン。欧州チームが連覇しているせいか、ライダーカップの地位は、サッカーのワールドカップ並みになってきた感すらします。
もしライダーカップ観戦に行かれるならば、早く部屋を押さえておくことを薦めます。Adare近郊には古城やマーナーハウスがホテルになっていますから、会場への渋滞を考えるならばLimerick市内のホテルよりはそちらをお奨めします。

*Dromoland Castle Hotel . Limerick市内の北になるがアイルランドを代表するゴルフ場付き古城ホテル。
年間トータルラウンド数のギネス記録に挑戦した男

*Photo by Angus Murray
世界中にはいろんなゴルファーがいるようです。
97年旧知のBob McCoyから100日間世界TOP100コースプレーへの挑戦を聞いた時、「健康で時には1日2コース、時差も計算しなければ達成は不可能だろうと」とコメントしましたが、彼はそれをやり遂げ、後にそれはギネスに登録されました。
そして今年、英国で一年間どれだけのゴルフコースをプレーできるか!そのギネス記録に挑戦する男が現れました。移動と寝泊まりは自身のキャンピングカーです。
ゴルフだけのために1年間過ごせる事を想像してみてください。仕事をする義務はありません。家族と過ごす為の拘束時間もありません。ただひたすらプレーをし、終えたらまた次のゴルフコースに向かいます。人生にそんな一年があっても良いのかも知れません。
ジョシュ・シンプソン(Josh Simpson)、若干27歳のこの英国人青年は、2025年、581番目の訪問クラブでラウンドを終えたその瞬間、1年間で異なる18ホールコースをプレーした最初の男として、ギネス世界記録を樹立しました。
2023年、彼は最愛なる母を癌の病で亡くし、息子として救えなかった後悔の念は、彼自身を自称「ミイラ男」と名付けるほど毎日が塞がれた、まるで相対性理論の時空を彷徨うワームホールの世界のようでした。しかし彼はゴルフによって救われました。人生は短い、明日は誰も約束されない。ならば今がやる時と、シングルの腕前を持つ彼は再出発への道の長いゴルフオデッセイのプロローグを描きはじめたのです。
ギネス記録の資格を得るには、各コースは6,000ヤードより長い18ホールでなければなラズ、9ホールコースは基準外となります。シンプソンによると、スコットランドのコースの半分以上がそれに該当しなかったそうです。また彼はすべてのホールを1番から18番まで順番にプレーしなければなりませんでした。混雑を避けるための10番ホールからのスタートは許されません。すべてのラウンドには証人とクラブの署名が必要でした。
クラウドファンディングからスポンサーも得て、それはキヤンピングカーでの広告となりました。そしてその一部は亡き母の慈善団体の資金にもなりました。
彼はイギリスのWoodhall Spaの2つのコースで36ホールからスタートしました。そこからはほとんどノンストップでした。彼はキャンピングカーで暮らし、イングランド、ウェールズ、スコットランドを横断しました。
多くのゴルフクラブの関係者、グリーンキーパーたちも彼の記録への挑戦を後押ししました。悪天候の日もメンバーたちは笑顔で彼を笑顔で迎え入れ、同伴プレーをしてくれました。彼は年間通じて30のゴルフグローブを使い切り、一足目の靴は500ラウンド目で2足目の靴に履き替えることになりました。ボールには母親の名と彼女が好きな蜂の絵柄がプリントされていました。そして彼は見事に581のゴルフクラブ訪問、18ホールプレーのギネスを達成します。しかし驚くのはこれまでにもこのような記録に挑戦していた男たちがいたことです。ゴルフのロマンには様々なギネス記録があるようです。

*Photo by Angus Murray
ゴルフコースの絵画を飾るのがトレンドか。
ゴルフ画家Graeme Baxter、Josh Smithの作品に注目が集まる。
古き名門には昔からクラブ史を飾ったレジェンドたちの肖像画やプレーしている風景画をライブラリーやバーラウンジに飾る風習があります。モダンコース時代に創設されたクラブでも最近はコースの写真を飾るよりコースの絵画をメインに飾るクラブが増えているようです。デンバー郊外のキャッスルパインズGCは80年代終わりに開設されたジャック・ニクラウスのシグネチャーコースです。写真家は18番のスケールの大きさを撮るでしょう。しかしゴルフ画家であるGraeme Baxter氏は何故か1番ホールからの高低差の景観を絵に収めています。左のクロックタワーを入れることでこの絵がどのゴルフコースであるかを示したかったのかも知れません。絵画には写真にはない作者のロマンが描かれます。

*Castle Pines GC #1 Graeme Baxter作
若かりし頃のJack Nicklausが単独で設計していた頃の名作、Shoal Creek Clubはゴルフマガジン誌がコースランキングを始めた1983年から1999年まで世界TOP100コースに君臨していました。
設計家としても一流になるという彼の強い信念が感じられる作品です
最近のBaxter氏はNicklaus設計のシグネチャークラブの仕事をずいぶん引き受けていますが、Shoal Creekはアラバマ州一の仕切りの高い名門クラブですし、既にニクラウスの肖像画も飾られていますからコースの絵画が飾られるのは当然の事だったのでしょう。

*Shoal Creek #14番 Graeme Baxter作
Tom Doakとその仲間達(著者も含む)が共作したThe Confidential Guide to Golf Coursesのカバーページもコース写真ではなくペイント画です。ゴルフ画家Josh C.f. Smith氏が担当しており、彼はBill CooreやGil Hanseの作品はもちろん、古い名門からの依頼も殺到している著名画家の一人です。 その作品を幾つかご紹介しましょう。

*Valley Club Montecito

*Pinehurst #2

*Pebble Beach GL
ゴルフマガジン誌が世界TOP100コースをスタートさせてまもない1987年、編集長だったGeorge Peper氏はコース選考委員長に、当時コース設計家を目指していた弱冠26歳の論説委員Tom Doakを自身の後継に抜擢しました。その年の9月号に発表されたTOP100コースの特集ページでは、編集部は何と一枚のコース写真も使わず、その代わりに絵画を使ってTom Doakのコース論説を飾りました。時に厳しい批評も受けるコース評価に理解を求め、コースランキングは商業ベースに流されない歴史から学ぶページに仕立てたいという編集部の強い意志からでした。米国では当たり前ですが、日本でも東京ゴルフクラブなど古い名門クラブが、倶楽部季刊誌の表紙にゴルフ史の絵画を使っています。素朴な光景の中にゴルフ史の伝統、Atmosphereな空間が描かれています。絵画には写真には描けないゴルフ史の物語があるようです。

*1987年GOLF Magazine世界TOP100コースより

*Tokyo GC 季刊誌
さて本年度もGOLF Atmosphereをご愛読頂きありがとうございました。
来年新春号では、オーガスタナショナルに隠されたPAR3の秘話からお伝えします。
皆様、どうぞ素敵なクリスマスと素晴らしい新年をお迎え下さい。
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Masa Nishijima, OSU, GOLF.com, North Berwick GC, Graeme Baxter.
Josh C.f. Smith, TGC資料室, Angus Murray.